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とーしろさんの趣味よもやま話の通用口。

「ライバルたちの待ち焦がれたコンクール。『四月は君の嘘』第8話感想・改稿」

 

アニメ『四月は君の嘘』第8話の感想、改稿文になります。
おつきあい頂けると幸いです。

 

幾人もの若きピアニストたちが技術を競う毎報音楽コンクール。
そのなかで実績もあり、実力で弩本命といわれる相座武士の演奏が始まった。

 

冒頭アバンでは、武士が海外での演奏の機会を断ってわざわざこのコンクールとにでた理由と、
彼にとって海外以上に大きな目標である公生へ心情が描かれます。
 

師匠の高柳先生が理解に苦しんだように、
多くの人の考え方ではすでに退場したに等しい有馬公生にこだわる理由などないはず。
さっさと海外で自身が成功するステップに進むのが普通。
けれど武士は公生に執着し、彼が出てくるであろうコンクールを望みます。
 

打倒有馬公生。
何が武士をそうさせるのか。
その様子も武士の演奏を通しての彼の身上モノローグで描かれています。
絵見も加えたこの二人は幼い頃から公生とトップを争っていたようで、
さらに椿が言うにはトップはずっと公生だったそうなので、
反骨を絵に描いたような武士にすればどうしても勝ちたい雪辱を晴らすべき相手なのでしょう。

 

またそれ以上に、OP後の提供画面で過去の武士が公生の演奏に歓喜している絵に重ねて、

 

「君だよ 君なんだよ」

 

と流れていることから、武士にとっての公生は、
公生にとってのかをりとその演奏のように憧れる存在であり、
そんな公生だからこそ超えたいのかもしれません。

 

武士の演奏曲は
ショパンエチュード》 嬰ハ短調 作品10-4

 

原作では課題曲は2曲で、ショパンエチュードの前に
バッハの平均律 第1巻第13番
の演奏があり、それからショパンエチュードとなっています。

 

原作では1曲目に演奏されるバッハの選択課題曲⇓


バッハ: 平均律クラヴィーア 第1巻 第13番 嬰ヘ長調 BWV858 リヒテル 1970


 
これはアニメの尺の問題でもありますが、
しかしエチュードと比べるとややテンポが遅い曲なので
吐くまでしていた武士の打倒有馬への闘志の表現としては
エチュードのみにしたのは好判断であったと思います。
(原作者の新川先生の意図としては、
このコンクールのメインに描かれるピアニストと、
武士のこのコンクールへの激情がこれから表現されるその序章的な意味合いで
ゆったりしたテンポの曲をチョイスした、とも考えられるかもです。

 

ちなみに演奏される課題曲をアニメは1曲にしたのは絵見もで、
原作では
バッハ平均律第1巻第3番
も弾いています。
こちらは絵見の闘争心を表わすかのようなハイテンポの曲です。

 

絵見の選択課題曲⇓

 


四月は君の嘘 単行本4巻 井川絵見演奏曲 バッハ平均律1-3


 
武士の演奏は絵見が聴いていて思わず爪を噛むレベル。
この二人は互いの実力のほどは幼いころからの付き合いで知っていますが、
今日はこう感じるほどの武士の演奏のようです。
それだけ公生のでる今回のコンクールに向けた武士の情熱がうかがえます。

 

絵見のこの様子をみて係員の人が
「豪胆な子だ」
と、評したのはたいていの子は自分の演奏の心配と緊張でいっぱいで、
若そうな係員にすればこれまでこんな子は見たことない、
という絵見の様子であり、
このシーンで井川絵見という人間をよく知ることができます。
(そしてこの後の絵見の出番を思うと、
公生がいるのに加えてライバルの一人の武士も絵見の気分の波をたたき上げたと言えるかもです)

 

武士の演奏は2年間、倒すべき相手である公生を待ち、磨きあげたピアノ。 
ようやく戻ってきた公生に武士は2年間の自分を見せつける。
武士と絵見の公生のライバルにたちにとって待ち焦がれた対戦への万感が込められた演奏。
そんな武士のピアノは審査員たちのなかでも大好評。
嫌味で気難しそうな年齢のいった審査員長にさえ、
「世界に羽ばたく逸材だね」
と言い切られる武士だった。
 

武士も公生へのライバル意識以前に、
自身を魅了したピアニストへの『憧れ』があった。
その憧れを追い、憧れに挑む。

だから帰ってきた公生に武士は自分の演奏を叩きつけて、
問いかけている。

 

今のお前は俺がまた追いかけ続けるに値するのか、
お前は俺の憧れでいてくれるのか?
見せつけてくれ!

 

――と。
果たして公生はそれに応えられるのか。

 

それぞれの休憩時間が楽しい。 

 

高柳先生、陰でちゃらいって言われてる。
得意気な椿ちゃん。
絵見に萌えている渡もどこか可愛いです。
軽薄もここまで分かりやすいと愛されキャラになりそう。

 

高柳先生と絵見の師匠の落合先生が
舌戦をしていますね。
師匠間でもライバルとか確執とかあるんですかね(それもそうか)
単純にピアノを弾くというわけではいかない、
さまざまな感情や思いを持ち込んで彼らは懸命に演奏する。
演奏者も人間で、彼らってそういう人間なのでしょうかね
(それそれでステキで美しいと思います。
人間くさい人たちが奏でるからこそ、美しいのかもしれません、
生の楽器の音って……)

 

公生への感情をもつ武士と絵見にしても、
母とかをり、自身への感情に揺れる公生も。
それはもしかしたらかをりさえも。
みんなそれぞれの理由と思いを抱いて演奏している。
彼らの人生の精一杯をのせて。
それはこれから話が進むうえでより濃くなって公生たちの演奏と感情となって描かれるのかもしれませんね。

 

熟女先生の

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  ©新川直司講談社/「四月は君の嘘」製作委員会 

 

 

 

 「女は好戦的な生き物なの」

 

が良いですね。本作は女性陣が強いのでものっそい説得力です。

 

そして絵見の演奏。

 

指をわきわき鳥肌立たせ、高まるテンションに絵見の今回のコンクールへの意気込みが感じられます。
これまでイマイチテンションが乗らなかった彼女の
『倒すべき相手』
公生がこのコンクールにはいる。

 

絵見の心情いっぱいの演奏。
公生がかをりの演奏に衝撃を受けて打ち抜かれたように、
絵見にとっては公生がそんな特別な存在。

 

大泣きして、感情があふれて魅了された。
絵見もピアノが弾きたいとピアニストを選んだきっかけが公生の演奏だった。

 

ですが憧れた公生はその後、機械のような無味乾燥な演奏をするようになっていく。
絵見はそれに苛立ちを憶える。
それも分かります。憧れた対象がつまらないモノになり果てたら
そりゃ見限るか怒るかしてしまいますよね。

 

「コンクールのために弾く有馬公生なんて聴きたくない」

 

初めてであった公生の演奏があるから絵見は今も演奏をして、
こうしてコンクールの場に、音楽の世界にいる。
それは憧れたというよりも、
生き方を――人生を変えられた経験だ。
それほど魅せられ、憧れたヒューマンメトロノーム以前の公生の演奏。

 

絵見の課題演奏曲
ショパンエチュード》 イ短調 作品25-11
『木枯らし』

 

絵見の寂しさを滲ませた切なく、しかし激情がうねるような曲。

 

絵見はこの演奏で公生のかつての姿を呼び覚まそうとするかのように、
「響け……!」
と、鍵盤を何度も叩くのに合わせるように念じ、
想いを届けるように魂のピアノを奏でた。

 

会場を武士の演奏にも勝る大喝采に導く絵見。
この彼女の公生への想いが乗せられた演奏が大喝采を浴びたように、
公生がかつての人を動かすピアノを弾けるようになるのか?
武士の公生への気持ちもそうですが、
絵見の想いは公生に届くのか。

 

何にしても、これだけ誰かへの思いを込めて弾かれたピアノは、
公生の心に何かを伝え揺り動かし、
何か意味あるモノへと昇華されることもきっとあると思うのです。

 

その公生の演奏はこのあと。

 

これまた楽しみです。

 

改稿の今でこそ冷静に書いていますが、
初見時は絵見の演奏に興奮してかなり乱れた文章になっておりました。
その節はどうも、読んでくださったみなさまに謝意とお礼申し上げます。

 

では、次の君嘘感想で。