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とーしろさんの趣味よもやま話の通用口。

「世界と他者との関係性で広がり始める世界。映画『ペンギン・ハイウェイ』鑑賞・感想」


今回は、映画『ペンギン・ハイウェイ』を鑑賞した感想を
書かせていただきます。

 

本作は『四畳半神話大系』『有頂天家族』などの
映像化もされたヒット作で知られる
森見登美彦の2010年初出の小説の映像化作品。

 

あらすじは、
勉強熱心で努力家の小学四年生、アオヤマくんと
彼が通う歯科医院のお姉さんとの交流が描かれる。
アオヤマくんはお姉さんのことが(おっぱいを含め)気になりますし、
お姉さんは変わっている少年を余裕をもってミステリアスに接します。
ある日、彼らの住む海もない街にペンギンの群れが現れ、
それがどこかへ消えるという怪事件が発生。
アオヤマくんは好奇心と探求心からその謎を『ペンギン・ハイウェイ研究』と題して研究することに。
その中で、お姉さんが何気なく投げた空き缶がペンギンに変わる。
お姉さんとペンギンの発生には何か関係が?
本作は夏休みを通したアオヤマくんのお姉さんとペンギンの研究と冒険が描かれます。
果たして、ペンギンとは?お姉さんとは?アオヤマくんとお姉さんとの関係は?

 

というお話で、ファンタジー要素と謎究明のお話でもあります。
そこで、この感想では肝心なネタバレは避けて、
気になったことを書かせていただきます。

 

アオヤマくんの人間関係

 

アオヤマくんは研究熱心ですが、
それゆえに自分の見栄やプライドで相手の気持ちを想像しない
自己中心的な幼さがあります。
このせいで、本人は合理的でもっともなことを言っているつもりでも、
かなりどきゅんで余計なことを言ってもめごとに発展するあたり、
人間の気持ち、感情への理解がおろそかになっている
マジメなのですが研究バカだと言えると思います。

 

それがお姉さんとの関係や、
友人のウチダくん、チェスのライバルでもあり研究仲間となるハマモトさん、
それに悪ガキ三人との衝突によって、
完全に相手の気持ちを尊重するには至らないまでも、
結果彼の世界が広がっていると思います。

 

この成長の度合いについては、
人間、大人の年齢でも他人への配慮の思考の拙い人間は割といて、
それを子供が完全にできなくても当然な面もあると思うのです。
本作は、一人での勉強と研究という自己の内面に向かう以外へと、
世界とそこに住まう人々に幼い彼が興味をもって接し、
意識と視野を拡大するまでの成長が描かれていたのではないか?
と感じます。

 

それをさせたのは、お姉さんという宇宙とその宇宙への恋だったとも言えます。
それはアオヤマくんは幼いながらも研究という、
科学の観点から世界と宇宙へアプローチする好奇心と探求の徒ですが、
本作はそんな科学の面も持ちながら、
サイエンス・『ファンタジー』であり、
だからこそロマンチックなお話でもあったと思います。

 

同時にファンタジー味のある不思議な謎のお話だったので、
そういう雰囲気が好きな人は見てみると良いかもしれません。

 

そして、これは森見先生が自身の人生で感じたことかもしれませんが、
人は自分のことだけではなく、
他者と関わって成立していて、
その他者に興味を持つことで世界は広がっていく、
という人間関係と人生の妙味について、
それをまだ知らない少年の立場でこそ描いたと言えるかもしれません。

 

お姉さんとペンギンの謎へのアプローチを通して、
世界≒他者へと視野を拡大して、
興味を持ち、時に不理解や衝突もして関係を構築して、世界をより知って生を楽しんでいく。
アオヤマくんはお姉さんとの関係とその謎を通して、
そんな成長を一歩踏み出したわけですね。

 

それは本作を通しては夏のひと時の出来事で、
まだまだ先の長い、奥の深い世界の一端に踏み出したというだけですが、
ラストに無くなったなずの探査船(玩具サイズ)が
戻ってきてお姉さんと未知への可能性がまだ繋がるあたりに、
彼の探求と世界の拡がりは今後も続いていくことを感じさせられます。

 

そうして様々なことを知って、その身で経験して学び、
さらに成長して今よりもっとたくさんのことを知る人間になったとき、
それを一番伝えたい人に会えるといいと思わされるが、
現実的に考えると、
それはお姉さんとは別の誰かかかもしれない。
また出会えても本作のような日常を共有できる相手となるかは分からないし、
だからまた……ということもある。
可能性として
お姉さんという究極にして原初を至高として探求し続ける生になるかもしれないし、
お姉さんという宇宙へたどり着いて悲願を果たすこともあるかもしれない。

 

この辺がお姉さん、宇宙の一端に触れた少年が今後どうなっていくのだろう、
という作品としての余韻あるラストだったと思います。

また、少年時代の年上の女性への恋というのは大概は儚いモノであり、
そんな思いを経たアオヤマ少年の今後に思いを巡らせるラストだったとも思う。

 

ある種、小四で甘酸っぱい思いをしたおねしょたモノといえるかもです。
といっても内容は健全です。
クラスの悪ガキとも和解していますので、
ひと夏の思い出を経て……という作品と言えそうです。

 

自分の評価としては、

 

お姉さんの関係は楽しいのですが、
それをずっとは続けられないという点で、
本来ファンタジー味のある子供向けのようで、
大人にも楽しめる作品だったと思います。

 

万事手に入れてハッピーという分かりやすくうまく行ったというラストではないので、
そういうのが好みの人にはちょっと……という内容な気もします。

 

アオヤマくんが彼の父の教えを活かして問題に取り組むあたり、
割と現実的な面もある、
不思議とリアルがブレンドされた、温かさと切なさの合わせ味みたいな
そんな感覚もある作品で、自分は結構気に入りました。

 

あと、アオヤマくんが父から習った思考整理の方法と、
エウレカ(閃き)への道は実際本当に使えるので、
思考やアイデアに関して興味のある人も見てみると良いと思います。

 

そんな『ペンギン・ハイウェイ』の感想でした。
文章での本作も手に取ってみたいですね。
お姉さんの寝顔とかどういう風に文章で表現されているのか興味ありますので。

 

ではでは~。