1046ワークス24口

とーしろさんの趣味よもやま話の通用口。

「集団戦、戦術、多数の個性的で的確な人物造形、そして遅れて知ることの妙味。お題スロットから「好きな作家」」

お題「好きな作家」

 

お題スロットから、お題「好きな作家」で書かせていただきます。

 

自分の好きな作家といって、
分量的に活字の小説よりも
漫画を読んでくることが多かった自分なので、
このお題の初めての作家さんは漫画家さんでいかせていただきます。

 

その自分の好きな作家は、

 

葦原大介先生

 

です。

 

葦原大介先生とは?

この漫画家さんは、
集英社週刊少年ジャンプで2008年に手塚賞を受賞して読み切り作デビューされた方で、
他の読み切りを経て2009年に
賢い犬リリエンタール
という漫画作品でジャンプ誌上で連載をされています。

 

本来、受賞作がミステリーテイストであり、
このあとの作品もどこか多くのジャンプで人気の漫画とは少し違う、
という作風があった先生でしたが、
『リリエンタール』もキュートな動物のような生命体を登場させながら、
少し変わっていたといえます。
(具体的にどう変わっていたかは、
ご興味があれば手に取って確かめてみてください)

 

そのせいかは分かりませんが、
『リリエンタール』自体は単行本4巻で連載終了でした。

 

しかし、この葦原先生が本領を発揮しだしたのは、
このあとの作品でした。

 

2013年に再び週刊少年ジャンプ誌上で連載が開始された
ワールドトリガー
これがすごく面白い!

 

ワールドトリガー

 

こちらは、あらすじを書くと、
この世界と隣接する異世界『近界』(ネイバーフッド)からの侵略者『ネイバー』と
日本の地方都市、三門市を拠点とする防衛組織『ボーダー』の戦いを描いています。

 

ワールドトリガー(以下『ワートリ』)』はSFモノであり、
敵対関係にあるこれらの集団は
人間に存在する未知のみえない内臓、トリオン器官
から供給される『トリオン』というエネルギーを使って
疑似的な肉体を構成したり、武器を作って戦闘します。

 

トリオンはかなりの汎用と応用の利くエネルギーで、
近界民は自国以外のこちらの世界(玄界(ミデン))の人間のそれを利用しようと
拉致のためにトリオンで作ったトリオン兵や
玄界と同じ人型のネイバーたちがゲートを通って現れます。
その被害を抑えるためにボーダーはネイバーを迎撃して地球側を防衛しています。

 

この作品がどう面白いのか?

 

本来、作家さんを語るべき記事ですが、
それは一番熱を上げている作品を語ることで代えたいと思います。

 

色々面白い点はあるのですが、特徴がそのまま面白いとも言えるので、
本作の特徴を挙げていくと、

 

まずSFなので設定がしっかりしています。
しかしその情報の開示が進行に沿ってとても適度で、上手で、ストレスなく
そのシーンの目的とそのための戦闘に集中できます。

 

組織と他の近界の国々との戦いを描くのでキャラの数が豊富です。

 

主人公自体も四人主人公というスタイルをとっていて、
コミックス1巻の表紙から近界からこちらの世界に渡ってきたネイバーの少年、
空閑遊真。彼は歴戦の手練れで嘘を見抜く力がありますが、身体的に秘密があります。
2巻のメガネの少年、三雲修。
この少年は才能が全然ない持たざる者、能力的に弱い人間です。
しかし一筋縄ではいかない正義感と読んでいくと分かる驚くべきメンタルがあります。
3巻のショートの女の子、雨取千佳。
彼女は修とは逆に天賦の才のある人間です。しかし内向的な子でネイバーがらみの問題を抱えています。
4巻のお兄さん風の迅悠一。
この人はサイドエフェクトと呼ばれる異能力の使い手で、
他の三人とボーダーの牽引的な役割をもつ存在ですが、
過去に色々とありそうなキャラです。

 

それにボーダーには兵士の部隊として
400人の初級のC級、
C級からあがりチームを組んだ100人前後のB級チーム、
(ひとつの隊は実動員3~4名とオペレーター一人の編成)
その上位、精鋭のA級部隊と、
特例のS級隊員から構成され、
B級A級はすべての隊の構成メンバー一人一人キャラが設定されているのですが、
このキャラ造形もとてもうまいのです。
分かりやすい属性やテンプレのキャラメイクではないことが
彼らのやりとりと日常生活が垣間見える瞬間に読み取れて、
そういうキャラの隠された広がりを読み取る楽しさを知っている人はにはたまらないような、
キャラ造形がしっかしした面もこの作品の特徴だと思います。

 

キャラの描写でいうと例えば、
3巻で修と遊真が所属することになった玉狛支部に小南先輩という女の子がいるのですが、
彼女は戦闘の腕は立つのですが性格が信じやすく、人の言葉をすぐ信じる騙されガールです。

 

そして、修は体力面戦闘面で弱いのですが、
これに小南先輩は手厳しい言葉をかけます。
そこで修を鍛える立場になった小南と同隊のもさもさ髪のイケメン、烏丸は
そんな厳しい言葉に傷つく修の直後に、小南に対して
「でもこいつ先輩のこと可愛いといってましたよ」と言って
小南は真に受けて照れるのですが、直後、烏丸はきっぱり「嘘です」と言います。
小南先輩は「だましたなメガネ、プライドが傷つけられた!」
ときれて修を羽交い絞めにして噛みつくのですが……

 

このシーンは一見、
烏丸のキャラと小南との関係性と、
騙されガールの小南先輩をからかった烏丸のギャグシーンに見えるのですが、
実は巧みな意趣返しの裏に
玉狛支部で初めて弟子を持った烏丸の弟子想いさが垣間見えるのです。

 

こういうちょっと隠れたキャラの一面がさらっと描かれているあたり、
そしてそれに
(あれ?あのシーンのこのキャラ、実はこういう意図だったのでは?)
と気づかされる小説のような作りの物語を描かれるのもこの作品の特徴で、
自分としても面白くて好きなところです。

 

というか、葦原先生は漫画家ですが、
その作品は色々作家的な方だと思っています。

 

コミックス10巻以降、
近界への渡航、遠征のための選抜試験の面もある
B級隊のランク戦(複数チームによる模擬戦)が行われ、
今月5月号でランク戦が終了したラウンド8まで
さまざまな隊と隊員が描かれ、その各キャラがみんな魅力的。
嫌なキャラが(おそらくたいていの人に)いないだろうことが予想される
恐ろしいまでのキャラメイク力の作品でもあります。

 


ここまで書いたところでは、
意味を知る、多数のキャラ、そしてチーム同士の戦闘。
チーム同士の戦い、そう集団戦もこの作品の魅力的な点だと思います。

 

これまでのジャンプの、そして多くのアニメ作品の集団戦というのは、
結局のところ
4対4の場合、1対1が4回という描かれ方だと多くの人は認識していると思います。
でもワートリはだいぶ違います。
本当に集団入り乱れての戦闘、
二人で一人を十字砲火したり、二対一で戦っているところを狙撃で援護したり、
他にも色々な形で複数対複数がしっかりと描かれています。

 

それが時に隊員がばらけている場合は違う局面を描きながら、
他の局面から遠くの仲間のためになる援護をしたり、
一人が勝つことで状況が変わる戦闘もあるのですが、
基本的に集団として勝利を目指していくスタイルが新鮮なのです。

 

しかもそれを全然矛盾も無理もなく完成度高く描いている。

 

そうした集団戦からいえるように、本作は一人の才能ある主人公が活躍したりや
弱い主人公が成長したりの王道の少年漫画とは違います。
具体的に自分なりにいうなら、
一つの目標を達成するために集団で勝つ過程を描いている面があります。
そして面白いのが、そのために必要なのは、一人の突出した才能や
努力と成長を総合しての現実的な『戦術』だと描いている点です。

 

ワートリは才能差や規模の格差、実力の差という現実的な困難をしっかり描いていて、
でもそういう現実の困難に打ち勝って目標を達成するために、
いかにして合理的に状況をクリアするかの『戦術』や、
そのために敵方の情報収集や戦闘の場所、地形の事前情報を集めたり、
勝つための作戦を練ったりの『準備』の必要性を描いています。

 

作中の言葉で、
実力がだいたい同じなら、より準備した方が勝つ。
というのがありますが、
まさにそういう戦い方を描いている点も面白いのです。

 

というか、こんなことを描いている少年漫画というのが珍しい。
週刊少年ジャンプでも異端も異端、変わり者の好む作品ともいえたかもしれません。

 

でも、とても味があるのです。
戦闘の絵にしても的確なのがすごいです。
銃弾が撃たれている数やオノマトペの数が適当に描かれていない。
今こう撃ってるのはあとのことを考えてちゃんと意図がある、
など戦闘でもその意味にあとから気づかされる面白さがあります。

 

そんなワートリ、ついたキャッチフレーズが

 

『やがてその意味にきづく物語』
『遅効性SF』

 

自分がこの作品に触れたのは、週刊誌上で41話、
コミックスでいうと5巻だったのですが、
この回は直前の遊真とA級隊員緑川との戦闘の
感想戦というか、どういう意図で戦っていたかが語られていたのですが、
孫子』を読んでいた自分は一見して
「あ、この作品戦術がしっかりしたバトルモノだ」
と他とは一味違う雰囲気を感じ取り、そこから単行本を集めてはまって
今に至ります。

 

ワートリはそんな、
ここまで書いたような従来のバトル漫画とは一線を画した
現実的に勝つ戦術バトルSF漫画と言えそうで、
少し変わった作品が好きな方は読んでみると楽しめるかもしれません。

 

本作は2014年10月から全73話という最近にしては珍しい
クールモノとしてではない形態でアニメ化されており、
今年はその久しぶりの第2シーズンも予定されています。

 

それで現在、昨日の4月3日の夜11時からBS朝日で再放送が開始されていたりもします。

 

葦原先生は首のご病気で2016年の暮れ頃から体調のために休載され、
2年後の2018年に連載再開、週刊ジャンプからジャンプSQ.に移籍して
現在は体調の様子を見ながら(時々休載もいれて)の連載を続けています。

 

もうね、葦原先生には健康を第一に考えて、ローペースでもなんとか
先生も読書も満足いく作品として描き切ってくださることを願うばかりです。

 

ご興味がわいた方は、『ワールドトリガー』是非読んでみてください。

 

そんな『ワールドトリガー』の葦原大介先生を、
自分の好きな作家として書かさせていただきました。

 

ではでは~。